2008年03月20日

ちりとてちん・落語「辻占茶屋」

『恋』というものは、どうも人を盲目にするらしい。

この伊之助という男も、せっかく無尽で当てた大金を、全部『辰巳の遊郭にいる紅梅という女郎に捧げる』と大騒ぎをしていた。

彼の母親から、何とか説得してくれと頼まれた叔父さんは、伊之助を改心させるべく彼を呼び出した。

「大体、その女郎のどこが良いんだ?」
「全てですよ、スベテ! 叔父さんにも今度紹介しましょうか?」

話にならない。叔父さん自身も似たような『経験』があるため、ただ文句を言っても逆効果なのはよく解る。そこで…?

「そんなに惚れているなら、ひとつ賭けをしてみないか?」
「カケ?」

翌日、伊之助がいやに深刻な顔で見世に現れた。

「紅梅を呼んでくれ…」

幽霊みたいな顔で女将にそう言い、二階に上がった伊之助は、部屋にあった辻占菓子で暇つぶしを始めた。

「まず一つ…。何々、【富士の山よりお金を貯めて】、威勢が良いねぇ。【端からチビチビ使いたい】、何だよ…?」

他にもいろいろ引いてみるか、どれも物騒な内容のものばかり。ブツブツと文句を言っていると、そこへ紅梅がやってきた。

「如何したの?」
「アハハハ…。親の金を使い込んだのがばれて、勘当を言い渡されちゃったんだ。情けないし、申し訳ないし…。だから死ぬことにしたんだ」
「エッ!?」

紅梅は目を見張り、やがて涙をこぼし始めた。

「貴方が死ぬというのなら、いっそのこと私も一緒に…」

と、言うわけで…二人は心中の約束をした。喜んだのは伊之助だ。

実は、夕べ叔父さんとした『賭け』の内容が、【紅梅に自殺をすると告げ、どのような反応をするかを見る】という物だったのだ。

「もし、その紅梅とか言う女郎が、お前との心中を言い出したら、何が何でも二人を夫婦にしてやる」…叔父さんはそう言っていた。

ルンルン気分の伊之助と、とんでもない事になり内心驚いている紅梅は、手に手をとって大川の身投げの名所・吾妻橋へとやって来る。

「如何しましょう…。そうだ!」

もともと死ぬ気のなかった紅梅は、闇に姿が隠れたのを幸いに、手近にあった大きな石を川へと放り込んだ。

「伊之さん、私は先に行きます! 南無阿弥陀仏!!」

ヒューッ…ドボン!

「フワーッ!? 本当に飛び込んじまった。如何しよう、俺はまだ死にたくないし…」

オロオロとする伊之助の目に、足元の大きな石が飛び込んできた。

「許せ、紅梅よ。俺は無尽が当たったばかり、まだ死にたくはないんだ。俺かあの世へ行くまで、この石で我慢をしておくれ。南無阿弥陀仏!」

ヒューッ…ドボン!

「あの馬鹿、本当に飛び込んじゃったわ。音を聞けば、石か人か解りそうなものなのに。やれやれ…」

いくら相手が色男とはいえ、歌舞伎もどきに心中することになっては堪らない。そう思いながら、紅梅はすたすたと帰っていった。

「参ったな…。こんな筈じゃなかったのに…ハクション!! お茶屋に羽織を忘れてきちゃったよ。取りに行こ」

両方がそろそろっと、寒さに震えながら戻ってくると、廓のドまん前でバッタリ…。

「あ!? お前…紅梅!!」
「あらぁ、伊之さん。お久しぶり♪」
「この野郎!! 心中するとか言って…、何が『お久しぶり』だ…?」

「だって…娑婆で会ったばかりじゃないか」

辰巳の辻占 - Wikipedia


posted by ちりとてちん at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ちりとてちん・落語
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